一方、1984年には私財を投じ稲盛財団を設立し理事長に就任。同時に国際賞「京都賞」を創設し、毎年11月に先端技術、基礎科学、精神科学・表現芸術の3部門で人類社会の進歩発展に功績のあった方々を顕彰している。他にもボランティアで、全57ヶ所(海外5ヶ所)、3900人余の若い経営者が集まる経営塾「盛和塾」塾長として経営者の育成に心血を注ぐ。
公職としては京都商工会議所名誉会頭を務める他、海外においてもスウェーデン王立科学アカデミー海外特別会員、ワシントン・カーネギー協会理事、全米工学アカデミー海外会員等を務める。また1997年には臨済宗妙心寺派円福寺にて得度を受けている。
仕事に就いて、最初からいい仕事にめぐりあえるわけではありません。まずは、自分に与えられた仕事を、明るさと素直さを持ち続けながら、粘りに粘ってやり続けることが必要です。絶対にやめてはいけません。それは、苦労に苦労を重ねてただ一つのことを極めた人だけが、素晴らしい真理に触れることができるからです。
しかし、最初に決まった仕事を、生涯の仕事としてただ辛抱すればいいというわけではありません。ひたむきに努めながらも、常にこれでいいのかということを考えるのです。決して、昨日と同じことを、同じ方法で、同じ発想でやってはいけません。小さなことでも、毎日これでいいのかということを反省し、改良するのです。あらゆるものに対して、「これでいいのか」という問いかけをするのです。これを長年繰り返しますと、素晴らしい進歩を遂げるはずです。基礎を教わったら、自分自身で工夫をしていく、これが創造です。
日々新たな創造をしていくような人生でなければ、人間としての進歩もないし、魅力ある人にはなれないだろうと思います。
人間には、大きく分けて、緻密で繊細できちょうめんな内気な人と、豪快で大胆で外向的な人の二つのタイプがあります。私は、仕事をしていくには、この両面をあわせ持つことが必要だと考えています。
テレビの時代劇を見ていると、着流しで、そのうえ酒まで食らっていながら、背後から忍び寄る敵の足音に気づいて、肩越しにバッサリと切る剣豪がいます。そんなシーンに私たちは喝采を送り、一見豪快に見える主人公の中に、一分のすきもない繊細な神経を見いだすのです。
ただ単に大胆なだけでは、パーフェクトな仕事はできません。一方、繊細なだけでは、新しいことにチャレンジする勇気は生まれません。仕事をする場合、どうしても豪快さと緻密さという、二律背反するような性格を備え、局面によって使い分けられる人が必要です。私は、繊細でシャープな神経の持ち主が、場を踏むことによって、真の勇気を身につけていったときにはじめて、本物になると思っています。
しかし、最初からそういう人が多くいるわけではありません。繊細な神経の持ち主は、積極的に機会と場を求め、勇気と大胆さを身につけていくことが必要です。
この公式は、平均的な能力しか持たない人間が偉大なことをなしうる方法はないだろうかという問いに、私が自らの体験を通じて答えたものです。
能力とは、頭脳のみならず健康や運動神経も含みますが、多分に先天的なものです。しかし、熱意は、自分の意志で決められます。この能力と熱意はそれぞれ〇点から一〇〇点まであり、それが積でかかると考えると、自分の能力を鼻にかけ、努力を怠った人よりも、自分には頭抜けた能力がないと思って誰よりも情熱を燃やして努力した人の方が、はるかに素晴らしい結果を残すことができるのです。
そして、これに考え方が加わります。考え方とは、人間としての生きる姿勢であり、マイナス一〇〇点からプラス一〇〇点まであります。つまり、世をすね、世を恨み、まともな生き様を否定するような生き方をすれば、マイナスがかかり、人生や仕事の結果は、能力があればあるだけ、熱意が強ければ強いだけ、大きなマイナスとなります。
素晴らしい考え方、つまり人生哲学を持つか持たないかで、人生は大きく変わってくるのです。
「足るを知る」という仏教の教えがある。人間の欲望にはきりがない。だから、その欲望を満たすことを考えても意味はない。現在の姿をあるがままに受け入れ、それを素直に感謝する。「これでもう十分じゃないか」「もうこれくらいでいいではないか」と欲望の肥大化を自ら否定する。こうして「足るを知る」なかに本当の幸福があるという教えである。私は、この教えのなかに地球環境問題を解決するためのヒントがあると思う。
我々はいつまでも豊かさを追いつづけることはできない。永久に経済的な成長を続けることは、この地球上ではできないのである。日本は世界第2位の経済大国、大変富める国になった。だから「足るを知り」、現在の豊かさに感謝し、これ以上の物質的繁栄を追い求めることはもうやめるべきではないか。そのような考え方を持つべきときがきていると思う。
私自身も1人の経済人として、環境問題を解決しながら、経済的成長を追い求めたいという気持ちはある。しかし、現在、環境の破壊も汚染もすでに限度を超えつつある。だから、私はせめて経済的な豊かさをすでに獲得している先進国の人々は、「足るを知る」という考え方をベースに経済社会のあり方を見直すべきだと思う。
自分の運命は自分で管理しなさい。 でなければ、あなたはだれかに自分の運命を決められてしまう。
素晴らしいチャンスは、ごく平凡な情景の中に隠れています。それは強烈な目的意識を持った人の目にしか映らないものなのです。目標を持たないうつろな目には、人生のどんな素晴らしいチャンスも見えることはありません。
・京セラ創業者 稲盛和夫 ・京セラ株式会社